海洋深層水中の溶存態有機物によるピロリ菌増殖抑制および胃損傷 の保護に関する研究
- 標題
- 海洋深層水中の溶存態有機物によるピロリ菌増殖抑制および胃損傷 の保護に関する研究
- 作者
- 鄭 剣廷(台湾師範大学)、○黄 秉益・林 怡汝(台湾石材・資源センター)、 楊 智欽(台湾大学付属病院)
- 文件屬性
- 其他
- 知識分類
- 醫療保健
- 點閱數
- 3219
摘要
1. はじめに
水深200m 以深から汲み上げられる海洋深層水は清浄かつ性質が安定していることから、含有資源が様々な商品に利用されている。近年は深層水に含まれているミネラルが着目され、これまでに多くの研究によって血中脂肪の減少、アレルギー反応や胃潰瘍症状の軽減効果が確認された。医学的に高濃度のマグネシウム摂取はピロリ菌(Helicobacter pylori)の感染を防ぎ、胃潰瘍や胃食道逆流の症状を改善することが知られ、深層水から製造したマグネシウムイオンが多く含まれた飲料水にも同様の効果があると報告されている。しかし、本研究チームは加熱滅菌した深層水由来の飲料水では上記の効果が確認されなかったことから、熱によって変性しやすい物質が関与する可能性を発見した。そこで、本研究では海洋深層水中に含まれている溶存態有機物に着目して、それによるピロリ菌感染を原因とする胃潰瘍症状の改善効果について調べた。
2. 材料と方法
本研究では台湾花蓮県沖、約600m 深から汲水した海洋深層水原水を減圧濃縮や電気透析などの方法を用いて、硬度の異なる試料水を調製し、さらに無処理、ろ過滅菌、加熱滅菌やエチレンジアミン四酢酸(EDTA)添加処理したものを実験に供した。試料水の調製は減圧濃縮の場合、海洋深層水原水を減圧濃縮して、途中で生成する固体物を取り除いて濃縮液を得、それに逆浸透水を使って必要な硬度に調整して実験に提供した。電気透析法の場合は硫酸、ナトリウム、塩素などのイオンを取り除いたものに逆浸透水を使って必要な硬度に調整した。上記試料水を用いて、ピロリ菌増殖実験、細胞実験
(in vitro)、動物実験(in vivo)および臨床実験を行い、胃損傷への試料水の影響を調べた。細胞実験はAGS 細胞、動物実験はBALB/c マウスを用い、臨床実験は実際にピロリ菌の感染が確認されている患者で行った。なお、全ての試料水は液体クロマトグラフィー質量分析計を用いて分析した。
3. 結果と考察
実験の結果、海洋深層水試料水はピロリ菌に起因するアポトーシス、オートファージやピロトーシスに影響するだけでなく、細胞実験、動物実験および臨床実験でもピロリ菌の増殖抑制の効果が確認された。ろ過滅菌、EDTA 処理および加熱滅菌していない試料水で調製した羊血プレートを用いて、胃疾患を持つ患者から分離した10 株のピロリ菌の培養実験を行った結果、全ての株で増殖抑制効果が認められた。一方で、加熱滅菌処理と塩化マグネシウム溶液ではピロリ菌の増殖は抑制されなかった。AGS細胞実験およびマウスの胃組織の検査ではピロリ菌感染はカスパーゼ-3 誘発のアポトーシスとカスパーゼ-1/IL-1β 媒介のピロトーシスを活性化させ、LC3 II 制御のオートファージを減少させることが発見された。マウスによる硬度が2,400mg/L の試料水の経口摂取実験で、除菌率が増加し、ピロリ菌の感染率が低減した。加えて、ピロリ菌に感染したマウスの胃粘膜において、酸化ストレス、3NT、4HNE、CD68、ピロトーシス、およびアポトーシスの増加が見られたが、オートファージが減少した。さらに試料水を14 日間摂取した後、ピロリ菌に感染したマウスとヒトともピロリ菌が根絶した。効果が認められた以上の試料水を液体クロマトグラフィー質量分析計で分析した結果、熱、酸や空気との接触によって変性する性質を持つ、m/z 値が1,070 の有機物が同定された。同有機物がピロリ菌増殖抑制に関与する可能性が高いことが示唆された。今後は更に研究を展開し、新薬としての応用が期待される。
水深200m 以深から汲み上げられる海洋深層水は清浄かつ性質が安定していることから、含有資源が様々な商品に利用されている。近年は深層水に含まれているミネラルが着目され、これまでに多くの研究によって血中脂肪の減少、アレルギー反応や胃潰瘍症状の軽減効果が確認された。医学的に高濃度のマグネシウム摂取はピロリ菌(Helicobacter pylori)の感染を防ぎ、胃潰瘍や胃食道逆流の症状を改善することが知られ、深層水から製造したマグネシウムイオンが多く含まれた飲料水にも同様の効果があると報告されている。しかし、本研究チームは加熱滅菌した深層水由来の飲料水では上記の効果が確認されなかったことから、熱によって変性しやすい物質が関与する可能性を発見した。そこで、本研究では海洋深層水中に含まれている溶存態有機物に着目して、それによるピロリ菌感染を原因とする胃潰瘍症状の改善効果について調べた。
2. 材料と方法
本研究では台湾花蓮県沖、約600m 深から汲水した海洋深層水原水を減圧濃縮や電気透析などの方法を用いて、硬度の異なる試料水を調製し、さらに無処理、ろ過滅菌、加熱滅菌やエチレンジアミン四酢酸(EDTA)添加処理したものを実験に供した。試料水の調製は減圧濃縮の場合、海洋深層水原水を減圧濃縮して、途中で生成する固体物を取り除いて濃縮液を得、それに逆浸透水を使って必要な硬度に調整して実験に提供した。電気透析法の場合は硫酸、ナトリウム、塩素などのイオンを取り除いたものに逆浸透水を使って必要な硬度に調整した。上記試料水を用いて、ピロリ菌増殖実験、細胞実験
(in vitro)、動物実験(in vivo)および臨床実験を行い、胃損傷への試料水の影響を調べた。細胞実験はAGS 細胞、動物実験はBALB/c マウスを用い、臨床実験は実際にピロリ菌の感染が確認されている患者で行った。なお、全ての試料水は液体クロマトグラフィー質量分析計を用いて分析した。
3. 結果と考察
実験の結果、海洋深層水試料水はピロリ菌に起因するアポトーシス、オートファージやピロトーシスに影響するだけでなく、細胞実験、動物実験および臨床実験でもピロリ菌の増殖抑制の効果が確認された。ろ過滅菌、EDTA 処理および加熱滅菌していない試料水で調製した羊血プレートを用いて、胃疾患を持つ患者から分離した10 株のピロリ菌の培養実験を行った結果、全ての株で増殖抑制効果が認められた。一方で、加熱滅菌処理と塩化マグネシウム溶液ではピロリ菌の増殖は抑制されなかった。AGS細胞実験およびマウスの胃組織の検査ではピロリ菌感染はカスパーゼ-3 誘発のアポトーシスとカスパーゼ-1/IL-1β 媒介のピロトーシスを活性化させ、LC3 II 制御のオートファージを減少させることが発見された。マウスによる硬度が2,400mg/L の試料水の経口摂取実験で、除菌率が増加し、ピロリ菌の感染率が低減した。加えて、ピロリ菌に感染したマウスの胃粘膜において、酸化ストレス、3NT、4HNE、CD68、ピロトーシス、およびアポトーシスの増加が見られたが、オートファージが減少した。さらに試料水を14 日間摂取した後、ピロリ菌に感染したマウスとヒトともピロリ菌が根絶した。効果が認められた以上の試料水を液体クロマトグラフィー質量分析計で分析した結果、熱、酸や空気との接触によって変性する性質を持つ、m/z 値が1,070 の有機物が同定された。同有機物がピロリ菌増殖抑制に関与する可能性が高いことが示唆された。今後は更に研究を展開し、新薬としての応用が期待される。